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鳴き弱る籬の虫もとめがたき
秋の別れや悲しかるらん

歌の意味
鳴く声が弱ってゆく垣根の虫も、引き止めることのできない秋との別れが悲しいのだろうか。
鑑賞
巻第七 離別歌 478

詞書「遠き所へまかりける人の詣で来て暁帰りけるに、九月尽くる日、虫の音もあはれなりければよめる」
 遠い地方へ下ることになった人が訪ねて来て、明け方に帰っていった日、それはちょうど九月の尽きる日、つまり秋の最後の日で、虫の音もしみじみと聞こえたので詠んだ歌である。鳴く声の弱ってゆく垣根の虫も、引き止めることのできない秋との別れが悲しいのだろうか、と詠む。去ってゆく秋と、遠くへ旅立つ人とを重ね、弱々しい虫の声に自らの別れの悲しみを託している。紫式部集にも、遠い所へ行く人との別れの歌として収められている。
 作者の「紫式部」は越前守藤原為時の娘である。一条天皇の中宮彰子に仕え、「源氏物語」「紫式部日記」を著した。中古三十六歌仙の一人で、小倉百人一首にも歌が採られている。

 初句「鳴き弱る」は、鳴く声がしだいに弱ってゆく、の意で、晩秋の虫のさまである。
 二句「籬の虫も」の「籬」は、柴や竹で目を粗く編んだ垣根である。「も」は、私と同じように虫も、の意を含む。
 三句「とめがたき」は、引き止めることができない、の意で、去ってゆく秋と、旅立つ人とをともに思わせる。
 四句「秋の別れや」は、九月尽、すなわち秋の終わりの日の秋との別れをいう。「や」は疑問の係助詞で、結句の「らん」と連体形で結ぶ。
 結句「悲しかるらん」の「らん」は現在推量の助動詞で、虫が悲しんでいるのだろうかと推し量り、そこに自らの悲しみを重ねる。

まうでく:参上する、訪ねて来る
まがき:柴や竹を粗く編んだ垣根
作者
紫式部
出典
千載和歌集
前の歌
別れより勝りて惜しき命かな 君に再び逢はむと思へば
次の歌
帰り来む程も定めぬ別れ路は 都の手振り思ひ出にせよ