あらずのみなりゆく旅の別れ路に
手馴れし琴の音こそ変はらね
- 歌の意味
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何もかもがもとの姿ではなくなってゆく旅の別れの道にあって、手に馴れた琴の音だけは変わらないことだ。
- 鑑賞
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巻第七 離別歌 495
詞書「王昭君の心をよみ侍りける」
王昭君の心になって詠んだ歌である。王昭君は前漢の元帝の宮女で、匈奴の王に嫁がされて遠い異国へ旅立った女性として知られる。何もかもがもとの姿ではなくなってゆく旅の別れの道にあって、手に馴れた琴の音だけは変わらない、と詠む。故国を離れて見知らぬ地へ向かう悲しみの中で、慣れ親しんだ楽の音だけが昔のままであることに、かえって深い悲しみを見いだしている。
作者の「右大臣」は藤原実定である。右大臣藤原公能の子で、千載和歌集の成立当時は右大臣であり、のちに左大臣に至った。後徳大寺左大臣と呼ばれ、小倉百人一首にも歌が採られている。
前歌は流される身の作者が箏の秘曲を弟子に託し、本歌は異国へ旅立つ王昭君が手馴れた琴の音を慰めとする。楽の音にまつわる別れの歌が二首並んでいる。
初句「あらずのみ」は、もとのようではなく、ただそればかりに、の意で、何もかもが変わってゆくさまをいう。
二句「なりゆく旅の」は、変わってゆく旅の、の意である。
三句「別れ路に」の「別れ路」は、故国と別れて行く旅路をいう。本巻の第四百七十九首、第四百八十七首、第四百九十一首にも同じ語が見える。
四句「手馴れし琴の」の「手馴れ」は使い慣れる意、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、弾き慣れた琴の、の意である。前歌の第四百九十四首が箏の秘曲を詠むのを受け、楽器の音で別れを詠む。
結句「音こそ変はらね」の「こそ」は係助詞で、打消しの助動詞「ず」の已然形「ね」と結ぶ。音だけは変わらない、の意で、初句の「あらず」と打消しどうしで対比させている。
てなる:使い慣れる
- 作者
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藤原実定
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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教へ置く形見を深く偲ばなん 身はあを海の波に流れぬ
- 次の歌
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忘るなよ姨捨山の月見ても 都を出づる有明の空