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風の音にわきぞかねまし松が根の
枕に漏らぬ時雨なりせば

歌の意味
風の音と聞き分けることはできなかっただろう。松の根の枕に漏れ落ちてこない時雨であったならば。
鑑賞
巻第八 羈旅歌 525

詞書「住吉社の歌合とて、人々よみ侍りける時、旅宿時雨といへる心をよみ侍りける」
 住吉社に奉納する歌合で、人々が歌を詠んだ時、旅宿の時雨という題で詠んだ歌である。松の根の枕に漏れ落ちてこない時雨であったなら、風の音と聞き分けることができなかっただろう、と詠む。松風の音と時雨の音とはまぎらわしいが、枕に雫が漏れ落ちるので時雨とわかるという、旅寝の床の情景を描いている。
 作者の「右近大将実房」は三条実房である。内大臣藤原公教の子で、右近衛大将を経て、のちに左大臣に至った。
 住吉社歌合は嘉応二年(1170)に道因法師が勧進して住吉社に奉納した歌合で、藤原俊成が判者を務めた。本歌から第五百二十八首までの四首は、この歌合の旅宿時雨の題の歌である。

 初句「風の音に」は、松を吹く風の音と、の意である。字余りの句である。
 二句「わきぞかねまし」の「わく」は区別する意、「かね」はできない意、「まし」は反実仮想の助動詞で、係助詞「ぞ」を受けて連体形で結ぶ。聞き分けることができなかっただろう、の意である。ここで句切れとなる。
 三句「松が根の」は、松の根の、の意で、旅寝の枕を示す。本巻の第五百十首、第五百二十首も松が根の枕を詠む。
 四句「枕に漏らぬ」は、枕に漏れ落ちてこない、の意である。
 結句「時雨なりせば」の「せ」は過去の助動詞「き」の未然形で、「ば」と合わせて反実仮想の条件を表す。二句と倒置の関係にある。

わく:区別する、聞き分ける
まつがね:松の根
作者
三条実房
出典
千載和歌集
前の歌
旅衣朝たつ小野の露しげみ しぼりもあへずしのぶもぢずり
次の歌
藻塩草しきつの浦の寝覚めには 時雨にのみや袖は濡れける