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はるばると津守の沖を漕ぎ行けば
岸の松風遠ざかるなり

歌の意味
はるばると津守の沖を漕いでゆくと、岸の松を吹く風の音が遠ざかってゆくのが聞こえる。
鑑賞
巻第八 羈旅歌 529

詞書「家に百首歌よませ侍りける時、旅の歌とてよみ侍りける」
 作者が自邸で百首歌を詠ませた時、自ら旅の題で詠んだ歌である。はるばると津守の沖を漕いでゆくと、岸の松を吹く風の音がしだいに遠ざかってゆくのが聞こえる、と詠む。舟が沖へ出るにつれて松風の音が遠くなってゆくことで、陸から離れてゆく舟旅の心細さを、音によって表している。
 作者の「摂政前右大臣」は九条兼実である。関白藤原忠通の子で、右大臣を経て文治二年(1186)に摂政となった。日記「玉葉」を残し、慈円の兄である。
 本歌から第五百三十一首までの三首は、兼実の家の百首歌の旅の歌である。

 初句「はるばると」は、遠く広々と、の意である。
 二句「津守の沖を」の「津守」は摂津国の住吉のあたりの地名で、その沖をいう。
 三句「漕ぎ行けば」の「ば」は已然形に付く確定条件で、漕いでゆくと、の意である。
 四句「岸の松風」は住吉の岸の松を吹く風で、住吉は松の名所である。
 結句「遠ざかるなり」の「なり」は聴覚による推定の助動詞で、遠ざかってゆく音が聞こえる、の意である。本巻の第五百五首も「遠ざかりぬる」と詠み、陸の旅と海の旅とで遠ざかるものを詠む歌が対をなしている。

つもり:摂津国住吉のあたりの地名
まつかぜ:松を吹く風、その音
作者
九条兼実
出典
千載和歌集
前の歌
草枕同じ旅寝の袖にまた 夜半の時雨も宿は借りけり
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わたの原潮路遥かに見渡せば 雲と波とは一つなりけり