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思ひやれむなしき床をうち払ひ
昔をしのぶ袖のしづくを

歌の意味
思いやってほしい。妻のいなくなった空しい寝床の塵を払いながら、昔をしのんで袖を濡らす涙のしずくを。
鑑賞
巻第九 哀傷歌 574

詞書「女に後れて嘆き侍りける頃、肥後がもとより問ひて侍りけるに遣はしける」
 妻に先立たれて嘆いていた頃、女房の肥後のもとから見舞いの便りがあったので贈った歌である。思いやってほしい、空しい寝床を払いながら、昔をしのぶ袖のしずくを、と詠む。妻のいない寝床にひとり寝る寂しさと、ともに過ごした日々をしのんで流す涙とを、見舞ってくれた相手に訴えている。
 作者の「藤原基俊」は右大臣藤原俊家の子である。官位には恵まれなかったが、歌壇の重鎮として源俊頼と並び称され、本集の撰者藤原俊成の師となった。小倉百人一首にも歌が採られている。

 初句「思ひやれ」は「思ひやる」の命令形で、思いやってほしい、の意である。ここで句切れとなる。前歌の第五百七十三首の結句「思ひこそやれ」と同じ語を用いる。
 二句「むなしき床を」は、共寝する妻のいなくなった空しい寝床を、の意である。
 三句「うち払ひ」は、床の塵を払いのけて、の意で、ひとり寝の寂しさを示す。
 四句「昔をしのぶ」は、妻と過ごした昔をしのぶ、の意である。
 結句「袖のしづくを」は、袖を濡らす涙のしずくをいう。初句の「思ひやれ」に返る倒置である。

とこ:寝床
うちはらふ:払いのける
とふ:見舞う、便りをする
作者
藤原基俊
出典
千載和歌集
前の歌
あやめ草うきねを見ても涙のみ かくらん袖を思ひこそやれ
次の歌
胸に満つおもひをだにも晴るかさで 煙とならむことぞ悲しき