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憂かりける人を初瀬の山おろしよ
はげしかれとは祈らぬものを

歌の意味
つれなかったあの人を、私になびくようにと初瀬の観音に祈りはしたが、初瀬の山おろしよ、お前のように、あの人のつれなさがいっそう激しくなれとは祈らなかったのに。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 708

詞書「権中納言俊忠家に恋十首歌詠み侍りける時、祈れども逢はざる恋といへる心を詠める」
 権中納言藤原俊忠の家で恋の十首歌を詠んだ時、「祈れども逢はざる恋」の題で詠んだ歌である。つれなかった人がなびくようにと初瀬の観音に祈ったのに、初瀬の山おろしよ、激しくなれとは祈らなかったものを、と詠む。山から吹き下ろす激しい風に呼びかけ、祈りの甲斐もなく、相手がいっそう冷たくなっていく恨みを表している。
 作者の「源俊頼朝臣」は大納言源経信の子である。堀河院歌壇の中心として活躍し、白河院の命で金葉和歌集を撰んだ。家集に「散木奇歌集」がある。
 小倉百人一首に採られた名高い歌である。百人一首では一般に三句を「山おろしよ」の字余りとして伝える。
 次歌の第七百九首も同じ俊忠家の恋十首の歌で、本歌が神仏に祈る恋を、次歌が神に誓う恋を詠み、二首が並んでいる。

 初句「憂かりける」は、つれなく、つらかった、の意で、二句の「人」にかかる。
 二句「人を初瀬の」の「初瀬」は大和国の地名で、観音信仰で名高い長谷寺がある。「人を」は結句の「祈らぬ」へかかり、人を、なびくようにと祈った、という言外の意を含む。
 三句「山おろしよ」は山から吹き下ろす激しい風に呼びかける。六音の字余りで、ここで句切れとなる。
 四句「はげしかれとは」の「はげしかれ」は形容詞「はげし」の命令形で、激しくあれとは、の意である。山おろしの激しさと、相手のつれなさの激しさとを重ねる。
 結句「祈らぬものを」の「ものを」は逆接の詠嘆を表す接続助詞で、祈らなかったのに、の意である。次歌の第七百九首の三句「神も聞け」と、神仏への祈りという点で響き合う。

はつせ:大和国の地名。長谷寺がある
やまおろし:山から吹き下ろす激しい風
作者
源俊頼
出典
千載和歌集
前の歌
かかりける涙と人も見るばかり しぼらじ袖よ朽ち果てねただ
次の歌
嬉しくは後の心を神も聞け 引く標縄の絶えじとぞ思ふ