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思ひきや榻の端書きかきつめて
百夜も同じ丸寝せんとは

歌の意味
思いもしなかった。車の榻に通った夜の印を書き集めるように、百夜通い続けても、同じように衣を着たまま独りで寝ることになろうとは。
鑑賞
巻第十二 恋歌二 779

詞書は前の歌に続き「法住寺殿の殿上の歌合に、臨期違約恋といへる心を詠める」
 前歌と同じ法住寺殿の殿上の歌合で、「臨期違約恋」の題で詠んだ歌である。思っただろうか、榻の端書きを書き集めて、百夜も同じ丸寝をすることになろうとは、と詠む。百夜通えば逢おうと女に言われた男が、通うたびに車の榻に印を書きつけたが、約束の夜を目前にして果たせなかったという、歌学書などに伝わる説話を踏まえる。その説話の男のように、通い続けても約束はたがえられ、結局は独り衣のまま寝る夜を重ねるばかりだと、約束をたがえられる恋の嘆きを表している。
 作者の「皇太后宮大夫俊成」は権中納言藤原俊忠の子である。皇太后宮大夫を務め、のちに出家して釈阿と号した。後白河院の命を受けて本集を撰んだ。
 恋歌二の巻末の一首で、前歌までと同じ題による三首の最後に置かれている。巻第十一の巻末の第七百三首も撰者俊成の歌で、恋歌一と恋歌二がともに撰者の歌で閉じられている。また巻頭の第七百四首が「むすばぬ水」に契りを結ばぬ恋を詠んだのに対し、巻末の本歌は百夜通っても丸寝に終わる恋を詠み、結ばれぬ恋で巻の始めと終わりが呼応している。初句の「思ひきや」は本巻の第七百五十六首と同じである。

 初句「思ひきや」の「き」は過去の助動詞、「や」は反語で、思っただろうか、いや思いもしなかった、の意である。ここで句切れとなり、結句と倒置の関係にある。本巻の第七百五十六首も同じ初句で始まる。
 二句「榻の端書き」の「榻」は牛車の轅を置く台で、その端に通った夜の数を書きつけたという説話を踏まえる。
 三句「かきつめて」は、書き集めて、の意で、二句の「端書き」の縁で「書く」を重ねる。
 四句「百夜も同じ」は、百夜通っても同じように、の意で、説話の百夜通いを受ける。
 結句「丸寝せんとは」の「丸寝」は衣を着たまま独りで寝ることで、「ん」は推量の助動詞「む」である。丸寝をすることになろうとは、の意で、初句の「思ひきや」へ返る。

しぢ:牛車の轅を置く台
はしがき:端に書きつけること。また、その書きつけ
かきつむ:書き集める
まろね:衣を着たまま独りで寝ること
作者
藤原俊成
出典
千載和歌集
前の歌
杣川の浅からずこそ契りしか などこの暮れを引き違ふらん
次の歌
契りこしことの違ふぞ頼もしき つらさもかくや変はると思へば