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逢ふことはいなさ細江のみをつくし
深きしるしもなき世なりけり

歌の意味
逢うことは「否」とばかり拒まれて、引佐細江の澪標が深い水路の目印であるように、身を尽くしても、深い思いのかいもない二人の仲であったのだ。
鑑賞
巻第十四 恋歌四 860

詞書は前の歌に続き「崇徳院に百首歌たてまつりける時、恋歌とて詠める」
 前歌と同じく『久安百首』の恋の歌である。逢うことは拒まれるばかりで、引佐細江の澪標のように、身を尽くしても深い思いのかいもない仲であった、と詠む。遠江国の引佐細江の地名に拒絶の「否」を掛け、水路の目印である「澪標」に「身を尽くし」を掛けて、どれほど尽くしても報われない恋の嘆きを表している。掛詞と縁語を幾重にも重ねた技巧的な一首である。
 作者の「藤原清輔朝臣」は左京大夫藤原顕輔の子である。六条藤家の歌学を継ぎ、『袋草紙』『奥義抄』などの歌学書を著した。
 本歌は崇徳院に奉った久安百首の恋の歌の一連の最後の一首である。

 初句「逢ふことは」は逢うことについては、の意で、「は」が主題を示す。
 二句「いなさ細江の」の「いなさ」は、遠江国の地名「引佐」と、拒む意の「否」とを掛ける。「細江」は細長い入り江のことである。
 三句「みをつくし」は、水路の目印として立てる杭である「澪標」と、「身を尽くし」とを掛ける。
 四句「深きしるしも」の「深き」は澪標が深い水路を示すことと、深い思いとを重ねる。「しるし」は目印の意の「標」と、効験、かいの意の「験」とを掛ける。「深き」「しるし」は「澪標」の縁語である。
 結句「なき世なりけり」の「世」は男女の仲のことで、「けり」は気づきの詠嘆である。かいもない仲であったのだ、と嘆いて結ぶ。

いなさ:遠江国の地名「引佐」と、拒む意の「否」とを掛ける
みをつくし:水路の目印として立てる杭である「澪標」と、「身を尽くし」とを掛ける
しるし:目印の意の「標」と、効験の意の「験」とを掛ける
よ:男女の仲
作者
藤原清輔
出典
千載和歌集
前の歌
露深き浅間の野らに小萱刈る 賤の袂もかくは濡れじを
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人づてはさしもやはとも思ふらむ 見せばや君になれる姿を