山城の美豆野の里に妹を置きて
いくたび淀に舟呼ばふらん
- 歌の意味
-
山城の美豆野の里に恋しい人を置いて、私はいったい幾度、淀の渡しで舟を呼ぶことになるのだろう。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌四 887
詞書「隔河恋といへる心を詠める」
「河を隔つる恋」の題で詠んだ歌である。山城の美豆野の里に恋しい人を置いて、幾度淀で舟を呼ぶことだろう、と詠む。淀川を隔てた美豆野の里に住む恋人のもとへ通うため、そのたびに淀の渡しで舟を呼ばなければならないと、川に隔てられた恋の不便さと、それでも通い続ける思いの深さを表している。具体的な地名を連ね、川を渡って恋人のもとへ通う情景を描き出した歌である。
作者の「前右京権大夫頼政」は源頼政である。摂津源氏の源仲政の子で、従三位に至った。のちに以仁王を奉じて平氏打倒の兵を挙げ、宇治で敗れて自害した。歌人としても名高い。
本巻の第八百八十九首、第八百九十首は「中川」を詠み、川にかかわる恋の歌が近くに配されている。
初句「山城の」は山城国のことで、二句の「美豆野」の所在を示す。
二句「美豆野の里に」の「美豆野」は山城国の地名で、淀川のほとりにある。
三句「妹を置きて」の「妹」は男性から恋人や妻を親しんで呼ぶ語である。字余りの句となっている。
四句「いくたび淀に」の「淀」は山城国の地名で、淀川の渡しがあった。「いくたび」は何度、の意で、結句の「らん」と呼応する。
結句「舟呼ばふらん」の「呼ばふ」は何度も呼ぶ、呼び続ける意で、「らん」は現在推量の助動詞である。幾度舟を呼ぶのだろう、と川を隔てた恋の嘆きを示して結ぶ。
いも:男性から恋人や妻を親しんで呼ぶ語
よばふ:何度も呼ぶ、呼び続ける
- 作者
-
源頼政
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず
- 次の歌
-
人知れず結びそめてし若草の 花の盛りも過ぎやしぬらん