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君やあらぬ我が身やあらぬおぼつかな
頼めしことのみな変はりぬる

歌の意味
あなたが昔のあなたではないのか、私が昔の私ではないのか、はっきりしない。頼みに思わせてくれた約束が、すべて変わってしまったことだ。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 927

詞書「題しらず」
 あなたが昔のあなたでないのか、私が昔の私でないのか、はっきりしない、頼みにさせた約束がみな変わってしまった、と詠む。伊勢物語四段の在原業平の歌「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつはもとの身にして」を踏まえる。業平の歌が、月も春も昔のままではないように思えるのに我が身だけはもとのままだと嘆くのに対し、本歌は、変わったのが相手なのか自分なのかさえわからないと詠み、約束のすべてが変わってしまった戸惑いと嘆きを表している。
 作者の「俊恵法師」は源俊頼の子である。東大寺の僧で、白川の自坊を歌林苑と名付けて歌人たちを集め、歌会を催した。鴨長明の和歌の師である。小倉百人一首にも歌が採られている。
 前歌の第九百二十六首の「変はりゆく」を受けて、本歌は「みな変はりぬる」と詠み、相手の心変わりを詠む歌が続いている。

 初句「君やあらぬ」の「や」は疑問の係助詞で、打消しの助動詞「ず」の連体形「ぬ」で結ぶ。あなたは昔のあなたではないのか、の意である。業平の歌の初句「月やあらぬ」を踏まえる。
 二句「我が身やあらぬ」は初句と同じ形を重ね、私の身が昔の私ではないのか、の意である。初句と対句をなす。
 三句「おぼつかな」は形容詞「おぼつかなし」の語幹で、はっきりしないことよ、の意の詠嘆を表す。ここで句切れとなる。
 四句「頼めしことの」の「頼め」は頼みに思わせる意の下二段動詞「頼む」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、相手が頼みに思わせた約束が、の意である。
 結句「みな変はりぬる」の「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形で、詠嘆をこめた連体止めである。すべて変わってしまった、の意である。前歌の第九百二十六首の初句「変はりゆく」と応じる。

たのむ:頼みに思わせる、期待させる(下二段活用)
作者
俊恵
出典
千載和歌集
前の歌
変はりゆく気色を見ても生ける身の 命をあだに思ひけるかな
次の歌
物思へどもかからぬ人もあるものを あはれなりける身の契りかな