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恋ひわぶる心は空に浮きぬれど
涙の底に身は沈むかな

歌の意味
恋に思い悩む心は、空にさまよい出てしまったけれど、この身は流す涙の底に沈んでいくことよ。
鑑賞
巻第十五 恋歌五 947

詞書「題しらず」
 恋に悩む心は空に浮かれ出てしまったが、涙の底に身は沈むことよ、と詠む。恋に悩むあまり心は上の空となって身を離れてさまよい出る一方、残された体は流す涙の深い底に沈んでいくと、心と身、浮くと沈む、空と底という上下の対比を用いて、心身ともに恋に引き裂かれる苦しみを表している。
 作者の「右近大将実房」は三条実房である。内大臣藤原公教の子で、三条家の人である。右近大将を経て、のちに左大臣に至り、出家して三条入道左大臣と呼ばれた。日記「愚昧記」を残した。
 本巻の第九百二十三首、第九百二十四首が身を離れてさまよう魂を詠んだのと同じく、本歌も心が身を離れて空に浮くと詠む。

 初句「恋ひわぶる」の「恋ひわぶ」は恋に思い悩む意である。
 二句「心は空に」は、心は空に、の意で、上の空となる意をこめる。「心」は結句の「身」と対をなし、「空」は四句の「底」と上下の対比をなす。
 三句「浮きぬれど」の「浮き」は身を離れてさまよい出る意、「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形で、「ど」が付いて逆接となり、浮かれ出てしまったけれど、の意である。結句の「沈む」と対をなす。本巻の第九百二十四首の二句「浮きぬる魂の」と「浮く」の語を共有する。
 四句「涙の底に」は、流した涙の深い底に、の意で、涙の多さを水の深さに見立てている。
 結句「身は沈むかな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、身は沈むことよ、の意である。「沈む」には、涙に沈む意と、悲しみに沈む意を重ねる。

こひわぶ:恋に思い悩む
作者
三条実房
出典
千載和歌集
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