うは氷あはに結べるひもなれば
かざすひかげにゆるぶばかりを
- 歌の意味
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上に張った薄氷のように、軽く結んだ紐であるから、頭にかざした日かげの鬘に、日の光で氷がゆるむように、少しゆるんだだけのことであるのに。
- 鑑賞
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巻第十六 雑歌上 961
詞書「一条院御時、皇后宮五節奉られける時、辰の日かしづき十二人、童、下仕へまで青摺をなむ着せられたりけるに、兵衛といふが赤紐の解けたりけるを、これ結ばばやと言ふを聞きて、中将実方朝臣寄りてつくろふとて、あしひきの山井の水は凍れるをいかなる紐の解くるなるらむ、と言ふを聞きて、返しに詠み侍りける」
一条天皇の時代、皇后定子が五節の舞姫を奉った際、辰の日に介添えの女房十二人から童、下仕えに至るまで青摺の衣を着せていた。兵衛という女房の赤紐が解けたのを「これを結びたい」と言うのを聞いた中将藤原実方が、寄って直そうとして、山の井の水は凍っているのに、どういう紐が解けるのだろう、と詠みかけた。それに対する返歌である。薄く張った上氷のように軽く結んだ紐なので、かざした日かげの鬘に、日の光で氷が解けるようにゆるんだだけなのに、と詠む。実方の歌の「凍れる」「紐」「解くる」を受けて、氷が日の光でゆるむ道理に紐のゆるみをなぞらえ、恋の意をほのめかす実方の詠みかけを、事もなげにかわしている。この逸話は『枕草子』にも記されている。
作者の「皇后宮清少納言」は清原元輔の娘である。一条天皇の皇后定子に仕え、随筆『枕草子』を著した。中古三十六歌仙の一人で、小倉百人一首にも歌が採られている。
前歌の第九百六十首が上東門院彰子の入内の屏風歌であるのに続き、本歌は皇后定子の宮廷での贈答で、一条天皇の二人の后にまつわる歌が並ぶ。なお本文の結句は「ゆるぶばかりを」とあり、読み仮名の行の「ゆるむはかりそ」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。
初句「うは氷」は、水の表面に薄く張った氷である。実方の歌の「山井の水は凍れる」を受けている。
二句「あはに結べる」の「あはに」は、軽く、薄く、の意で、氷が薄く張ることと紐を軽く結ぶことを重ねている。
三句「ひもなれば」の「ひも」は、衣の紐の意と氷の表面である氷面の意を掛ける掛詞である。「なれば」は、であるので、の意である。
四句「かざすひかげに」の「ひかげ」は、五節の際に冠にかける日蔭の鬘の意と、日の光の意を掛ける掛詞である。氷が日の光に解けるように、の意を含む。
結句「ゆるぶばかりを」の「ゆるぶ」は、ゆるむ意である。「ばかり」は限定の副助詞、「を」は逆接の意をこめた詠嘆の間投助詞で、ゆるんだだけのことなのに、の意である。
ごせち:新嘗祭や大嘗祭の際に行われる、少女の舞を中心とする行事
かしづき:舞姫の介添え役の女房
あをずり:山藍などで模様を青く摺り出した衣
ひも:衣の紐の意と、氷の表面である氷面の意を掛ける
ひかげ:五節の際に冠にかける日蔭の鬘の意と、日の光の意を掛ける
ゆるぶ:ゆるむ
- 作者
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清少納言
- 出典
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千載和歌集
- 前の歌
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笛竹のよ深き声ぞ聞こゆなる 岸の松風吹きや添ふらん
- 次の歌
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誰が里の春のたよりに鶯の 霞に閉づる宿を訪ふらん