妹と寝て起きゆく朝の道よりも
なかなか物の思はしきかな
- 歌の意味
-
恋しい女と共寝をして起きて帰っていく朝の道よりも、かえってもの思いがまさることだ。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌上 963
詞書「藤原実方朝臣の宿直所にもろともに臥して、暁帰りて朝に遣はしける」
親しい友の藤原実方の宿直所で一緒に夜を過ごし、明け方に帰った朝に送った歌である。恋しい女と寝て起きて帰る朝の道よりも、かえってもの思いがまさることだ、と詠む。後朝の別れのつらさを引き合いに出し、友と別れたあとの名残惜しさがそれ以上であると、親しい友情を恋の歌の形で表している。
作者の「藤原道信朝臣」は太政大臣藤原為光の子である。藤原兼家の養子となり、左近衛中将に至ったが、二十三歳の若さで世を去った。中古三十六歌仙の一人で、小倉百人一首にも歌が採られている。
前歌の第九百六十二首が門をめぐる男女の贈答であったのに続き、本歌は男同士の友情を後朝の別れになぞらえた歌である。
初句「妹と寝て」の「妹」は、男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語で、恋しい女と共寝をして、の意である。
二句「起きゆく朝の」は、起きて帰っていく朝の、の意で、後朝の別れを思わせる。
三句「道よりも」の「よりも」は比較を表し、帰り道よりも、の意である。
四句「なかなか物の」の「なかなか」は、かえって、むしろ、の意である。
結句「思はしきかな」の「思はし」は、もの思いがされる意の形容詞、「かな」は詠嘆の終助詞で、もの思いがまさることだ、の意である。
とのゐどころ:宮中で夜の勤めに詰める部屋
いも:男性が妻や恋人を親しんで呼ぶ語
きぬぎぬ:共寝をした男女が翌朝別れること
- 作者
-
藤原道信
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
誰が里の春のたよりに鶯の 霞に閉づる宿を訪ふらん
- 次の歌
-
春の夜の夕ばかりなる手枕に かひなく立たん名こそ惜しけれ