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露しげき蓬が中の虫の音を
おぼろけにてや人の尋ねん

歌の意味
露の深く置いた蓬の中で鳴く虫の音のような、荒れた家に住む私の琴の音を、並ひととおりの気持ちで人が尋ねてくることがあろうか。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 977

詞書「上東門院に侍りけるを、里に出でたりける頃、女房の消息のついでに、箏の琴伝へに詣で来んと言ひて侍りける返事に遣はしける」
 上東門院彰子に仕えていたが里に下がっていたころ、ある女房が手紙のついでに、箏の琴を教わりに伺いたい、と言ってきたので、その返事として送った歌である。露の深い蓬の中の虫の音を、並ひととおりの気持ちで人が尋ねてくるだろうか、と詠む。自分の住まいを蓬の生い茂る荒れた家に、自分の琴の音を虫の音にたとえて謙遜しながら、よほどの志がなければ訪ねては来ないでしょう、とやんわり応じている。
 作者の「紫式部」は藤原為時の娘である。藤原宣孝と結婚して大弐三位を生み、夫の死後、上東門院彰子に仕えた。『源氏物語』『紫式部日記』の作者として知られ、小倉百人一首にも歌が採られている。
 前歌の第九百七十六首の「心のほど」が相手の心づかいの深さをたたえるのに対し、本歌の「おぼろけにてや」は訪ねる人の志の深さを問い、人の心の程度をめぐる歌が並ぶ。

 初句「露しげき」は、露がびっしりと置いた、の意である。
 二句「蓬が中の」は、蓬の生い茂る中の、の意で、手入れのされない荒れた家を表す。自分の里の住まいを謙遜している。
 三句「虫の音を」は、草むらで鳴く虫の声で、自分の弾く琴の音をたとえている。
 四句「おぼろけにてや」の「おぼろけ」は、並ひととおり、ありふれたさまの意である。「や」は反語の係助詞で、結句の「ん」で結ぶ。
 結句「人の尋ねん」の「ん」は推量の助動詞「む」の連体形で、人が尋ねてくるだろうか、いや並の気持ちでは来ないだろう、の意である。

おぼろけ:並ひととおり、ありふれたさま
さうのこと:十三弦の琴、箏
よもぎ:荒れた家の庭に生い茂るものとされた草
せうそこ:手紙、便り
作者
紫式部
出典
千載和歌集
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昨日見ししのぶもぢずり誰ならん 心のほどぞ限り知られぬ
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