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花に染む心のいかで残りけん
捨て果ててきと思ふ我が身に

歌の意味
花に深く染まる心が、どうして残っていたのだろうか。俗世への思いはすっかり捨て果ててしまったと思っている、この我が身に。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1066

詞書「花の歌あまた詠み侍りける時」
 花の歌を数多く詠んだ時の一首である。花に染まる心がどうして残っていたのだろうか、すっかり捨て果ててしまったと思う我が身に、と詠む。出家して俗世への執着をすべて捨てたつもりでいたのに、花を見ると心が深く引き寄せられてしまう。その自分に驚き、戸惑いながらも、花を愛する心の強さを率直に認めている。
 作者の「円位法師」は西行である。俗名を佐藤義清といい、鳥羽院の北面の武士であったが、二十三歳で出家した。諸国を旅して多くの歌を残した。
 本巻の第千六十八首の結句「染めし心を」と、花の色に「染む」心を共有する。本歌が捨てたはずの身に花に染む心が残ると詠むのに対し、第千六十八首は花の色に染めた心を思い返すと詠み、対照をなしている。

 初句「花に染む」の「染む」は、色が染みつく意から、深く心を寄せる意で、花の色が染みつくように心がとらわれることを言う。本巻の第千六十八首の結句「染めし心を」と「染む」心を共有する。
 二句「心のいかで」の「いかで」は、どうして、の意で、三句の「けん」と呼応する。
 三句「残りけん」の「けん」は過去推量の助動詞「けむ」の連体形で、どうして残っていたのだろうか、の意である。ここで句切れとなり、下の句と倒置の関係にある。
 四句「捨て果ててきと」の「て」は完了の助動詞「つ」の連用形、「き」は過去の助動詞で、すっかり捨ててしまったと、の意である。
 結句「思ふ我が身に」は、と思っている我が身に、の意で、倒置によって三句へ返っていく。

そむ:色が染みつく、深く心を寄せる
すてはつ:すっかり捨ててしまう
作者
西行
出典
千載和歌集
前の歌
散るを見て帰る心や桜花 昔に変はるしるしなるらん
次の歌
仏には桜の花をたてまつれ 我が後の世を人とぶらはば