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この春ぞ思ひは返す桜花
むなしき色に染めし心を

歌の意味
出家して迎えたこの春にこそ、思いを改めることだ、桜の花よ。むなしい色に染めてきた心を。
鑑賞
巻第十七 雑歌中 1068

詞書「世を背きて、又の年の春、花を見て詠める」
 出家した翌年の春に、花を見て詠んだ歌である。この春こそ思いを改める、桜の花よ、むなしい色に染めてきた心を、と詠む。俗世にあった時は花の色に心を染めていたが、仏道に入って迎えた春には、その色が仏教でいうむなしいものであったと悟り、心を思い直している。花の美しさに向かいながら、出家者としての自覚を新たにする歌である。
 作者の「寂然法師」は藤原為忠の子で、俗名を頼業という。兄の寂超、寂念とともに大原に住み、大原三寂と呼ばれた。西行と親しく交わった。
 本巻の第千六十六首の初句「花に染む」と「染む」心を共有する。第千六十六首が捨てたはずの身に花に染む心が残ると詠むのに対し、本歌は花の色に染めた心を思い返すと詠み、対照をなしている。

 初句「この春ぞ」の「ぞ」は強意の係助詞で、二句の「返す」で結ぶ。出家して初めて迎える春を指す。
 二句「思ひは返す」は、思いを改める、思い直す、の意である。係り結びの結びで、ここで句切れとなる。
 三句「桜花」は花への呼びかけである。
 四句「むなしき色に」の「色」は花の色と、仏教でいう形あるものの意を重ね、それが空しいものであると言う。「色即是空」の考えを踏まえている。
 結句「染めし心を」は、染めてきた心を、の意で、二句の「思ひは返す」の対象を倒置によって示している。本巻の第千六十六首の初句「花に染む」と「染む」心を共有する。

よをそむく:出家する
おもひかへす:考えを改める、思い直す
いろ:仏教で、形あって目に見えるもの
作者
寂然
出典
千載和歌集
前の歌
仏には桜の花をたてまつれ 我が後の世を人とぶらはば
次の歌
世の中を常なき物と思はずは いかでか花の散るに堪へまし