数ならで心に身をばまかせねど
身に従ふは心なりけり
- 歌の意味
-
物の数にも入らない身なので、心のままに身を任せることはできないけれども、身の境遇に従ってしまうのは、かえって心のほうであったことだ。
- 鑑賞
-
巻第十七 雑歌中 1096
詞書「題知らず」
物の数にも入らない身で、心のままに身を任せることはできないが、身に従うのは心であったことだ、と詠む。取るに足りない身分であるため、心の望むとおりに身を処することはできない。ところが実際には、心のほうが身の境遇に従って変わっていってしまうと、心と身の関わりを鋭く見つめている。宮仕えの身の不如意と、それに慣れていく心とを省みた、内省の深い歌である。『紫式部集』にも見える。
作者の「紫式部」は藤原為時の娘である。上東門院彰子に仕え、『源氏物語』を著した。
本巻の第千七十九首と初句「数ならで」を共有する。また本巻の第千七十八首が、物思う心が身に先立って憂き世を出る道しるべとなるかと詠むのと、心と身の関わりを詠む点で通う。
初句「数ならで」は、物の数にも入らないで、の意である。本巻の第千七十九首と同じ初句である。
二句「心に身をば」は、心の思うままに身を、の意で、「をば」は目的を示す「を」を強めた形である。本巻の第千七十八首の二句「心や身にも」と、心と身を並べる点で通う。
三句「まかせねど」の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形、「ど」は逆接で、任せることはできないけれども、の意である。
四句「身に従ふは」は、身の境遇に従うのは、の意で、二句の「心に身を」と心と身の関係が反転している。
結句「心なりけり」の「けり」は詠嘆で、心であったことだと、改めて気づいた思いを表している。
まかす:思いどおりにさせる、ゆだねる
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
千載和歌集
- 前の歌
-
命あらばいかさまにせん世を知らぬ 虫だに秋は鳴きにこそ鳴け
- 次の歌
-
あはれとも誰かは我を思ひ出でむ ある世にだにも訪ふ人もなし