大和物語
懲りずまの浦に潜って取ろうという浮き海松は、波が騒がしくあることでしょう。
詳細を見る
来て見ても心が晴れない。この旧い所の、昔のままの花は散っているけれども。
忘れまいと言って頼みに思わせたあの人は、健在だと聞く。それならばあのとき言った言葉は、どこへ行ってしまったのだろう。
栗駒の山を朝立つ雉が狩に遭うまいとするよりも、かりそめの逢瀬などしまいと思っていたのに。
思う人が雨となって降ってくるものならば、この雨漏りのする床を裏返したりはしないだろうに。
忘れられる我が身のことは思わない。ただ神に誓ったあの人の命が惜しく思われることだ。
ならばいっそ思ってくださいな。海女も拾わぬ空の貝殻のように、むなしい名ばかりを立ててよいものでしょうか、あなたは。
今日からは荻を焼いた野原をかき分けて、若菜を摘みに行こうと、誰を誘えばよいだろう。
片岡に蕨が萌えていなければ、あちこち尋ね歩いて、気晴らしに若菜を摘もうか。
山里に私を残して、別れ道の雪が、あなたの行くにつれて深くなっていくのだろう。
山里へ通う心も絶えてしまいそうだ。行く者もとどまる者も、あまりの心細さに。
紀の国のむろの郡へ行く人は、風の寒さなど思い知ることもないでしょう。
紀の国のむろの郡へ行きながらも、あなたと共にする夜具のないことが侘しい。
この方角のこと以外にも多くの約束を違えるので、恨むべき方角さえもないのが侘しい。
どうにかしてやはり、網代の氷魚に尋ねてみたい。何によってあの人は私を訪ねないのかと。
網代よりほかに氷魚が寄るものだろうか。分からなければ宇治の人に尋ねてごらんなさい。