大和物語
隠れていた月はめぐって出てきたけれど、その光の中にも、あの人の姿は見えないのだった。
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脱ぐことばかりを悲しいと思っていたが、亡き人を偲ぶ形見の色は、またあったのだった。
小倉山の峰の紅葉よ、もし心があるならば、もう一度の行幸を待っていてほしい。
散ってしまえば悔しいものを、大井川の岸の山吹は、今日こそ盛りである。
悔しいことに、のちに逢おうと約束してしまった。今日を最後だと言えばよかったものを。
旅立つ人は、そのうち帰って来ようと言うものなのに。心細いことだ、今日の別れは。
宮中の袂の数は多く見たけれど、とりわけ思いの色をした人が恋しい。
天の川は空にあるものと聞いていたけれど、私の目の前の涙であったのだ。
世をつらく思う涙が流れて速いとしても、天の川に、そうたやすくなってよいものだろうか。
恋しさのために死んでしまったこの命を思い出して、尋ねる人があったなら、もういないと答えてください。
せめて亡骸にでも、私が来たと伝えてください。露の身が消えるなら共にと、約束しておいたのだから。
墨染めの衣で鞍馬の山に入っていった人は、手探りしながらでも帰ってきてほしい。
やっとのことで忘れかけた恋しさを、いやに思い起こさせるうぐいすの声だ。
それではあなたは忘れていらしたのですか。うぐいすの鳴くときだけ思い出すというのですか。
私にとってつらい相手を差し置いて、どうして何の罪もない世の中を恨んだりしようか。
荻の葉がそよぐたびに恨んだことだ。風になびいて移り変わる、あなたのつれない心を。