大和物語
塩竈の浦には海人が絶えてしまったのだろうか。どうして漁をする姿の見えるときがないのか。
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長年濡れ続けてきたこの袖を、今日の涙でとうとう朽ちさせてしまうのだろうか。
忘れられるかと思って出てきたけれど、どこにいても憂さは離れないものであった。
あなたを思って、生々しいこの身を焼くときには、煙が多く立つものであった。
世の中が浅い瀬にばかりなっていくので、この藤の花も、昨日の淵の花としてこそ見えることだ。
藤の花は色が浅くも見えることだ。もう色移りしてしまったあとの名残なのだろう。
思うという心は、これほどに別ものであったのに、昔の人にはいったい何を言っていたのだろう。
行く末の宿縁を知らない心では、あなただけの身だと、そう言っていたのだ。
なるほど峰の嵐は激しかったのだろう。だがその風になびいた枝を恨みながら帰ってきたのだ。
忘れないでください。私も忘れはしません。春霞の立つ今朝、立ったままで交わした約束のことを。
玉すだれの内へと隠れるのは、いよいよ私に姿を見せまいと思ってのことだったのだ。
嘆きばかりが茂る深山のほととぎすは、木に隠れていても、ただ声を上げて鳴くばかりである。
死ねということなのか。取るものも取りあえず追い払われるとは。まことに生きた心地もしない。
では私は、雪の降る空に消えてしまえということなのか。立ち戻ってきたのに開かないこの板戸は。
夜が更けて、いなおほせ鳥が鳴いていたのを、あなたが戸を叩くのだと思ってしまったことだ。
あなたを思う隙間もない家だと思っていたけれど、今宵の雨は漏らないところがない。