万葉集
雄鹿が妻を呼び寄せようと鳴く声の届く限り、なびけ、萩原よ。
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あなたを恋しく思ってしょんぼりしていると、敷の野の秋萩を押し分けて、雄鹿が鳴いている。
雁はやって来た、萩は散ってしまったと、雄鹿の鳴く声までもしょんぼりと沈んでしまった。
秋萩への恋も尽きないので、雄鹿の声は次々と続き、恋しさがいっそうまさることだ。
山の近くに家を構えて住むべきであろうか。雄鹿の声を聞きながら、眠りかねていることだ。
山のあたりに出かけて行く猟師は多いけれども、山にも野にも雄鹿が鳴いている。
山を通って来たならば、雄鹿の妻を呼ぶ声を聞くことができただろうに。
山のあたりでは猟師の狙いが恐ろしいけれども、雄鹿が鳴いているようだ。妻に逢いたいと思って。
秋萩が散っていくのを見ると心が晴れないので、妻を恋い慕っているらしい。雄鹿が鳴いている。
山から遠い都であるので、雄鹿の妻を呼ぶ声はめったに聞けないことだ。
秋萩が散ってしまったならば、雄鹿は嘆き悲しんで鳴くことだろう。見ないでいると物足りないので。
秋萩の咲いている野辺では、雄鹿が露を分けながら妻を求めて歩き回っていた。
どうして鹿が嘆き悲しんで鳴いているのだろう。もしかしたら秋の野の萩がしきりに散っているのだろうか。
秋萩の咲いている野辺で、雄鹿は萩の散るのを惜しんで、鳴きながら行くことだ。
山のいつも日の当たらない陰で鳴く鹿の声を、お聞きになっているだろうか、山の田の番をしておられる娘よ。
夕方の光の中に来て鳴くひぐらしの声は、これほど毎日聞いていても飽きない声であることよ。