万葉集
秋風が寒く吹くにつれて、我が家の浅茅の根もとで、こおろぎが鳴いている。
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物陰の草が生い茂った家の、夕方の光の中で鳴くこおろぎの声は、いくら聞いても飽きないことだ。
庭の草に村雨が降って、こおろぎの鳴く声を聞くと、すっかり秋らしくなったことだ。
吉野の岩の根もとを離れずに鳴くかじか蛙は、もっともなことに鳴いていたのだ。川が清らかなので。
神なびの山の麓を響かせて流れて行く水に、かじか蛙が鳴いているようだ。秋だと告げようとしてだろうか。
旅の途中で物思いにふけりながら私が聞いていると、夕方が近づいて鳴くかじか蛙であることよ。
瀬の流れが速いので、激しく流れ落ちてわき立つ白波の中で、かじか蛙が鳴いている。朝ごと夕ごとに。
上流の瀬でかじか蛙が妻を呼んでいる。夕方になると袖が寒いので、妻と共寝しようというのだろうか。
取石の池の波の間から、鳥の声がいつもと違って鳴いている。秋は過ぎてしまったらしい。
秋の野の尾花の穂先で鳴く百舌鳥の声を聞いただろうか。耳を傾けて聞きなさい、我が妻よ。
秋萩に置いている白露を、毎朝毎朝、玉として見ることだ。置いている白露を。
夕立の雨が降るたびに、春日野の尾花の上に置く白露が思われる。
秋萩の枝もたわむほどに露霜が置いて、寒い季節になったことよ。
白露と秋萩とに恋い乱れて、どちらとも区別しがたい私の心であることよ。
我が家の尾花を押しなびかせるほどに置いている露に、手を触れてごらん、愛しい人よ。露が散るのも見よう。
白露は手に取ったら消えてしまうだろう。さあ皆の者、露と競うようにして萩の遊びをしよう。