万葉集
あまりに夜が更けてからは行かないでください。道のほとりの笹の上に霜が降るような夜なのに。
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笹の葉にはらはらと降り覆った雪が消えたら忘れようかと言うと、いっそう思われることだ。
霰が降り、ひどく風が吹く寒い夜に、旗野で今夜私はひとりで寝るのだろうか。
吉隠の野の木に降り覆う白雪のように、はっきりと人目につくように恋をする私であろうか。
ただ一目見ただけの人に恋い慕うことは、空を曇らせて降ってくる雪が消えるように、消え入りそうに思われる。
思い出す時はどうしようもないので、豊国の由布山の雪が消えるように、消え入りそうに思われる。
夢のようにはかなくあなたに逢って、空を曇らせて降ってくる雪が消えるように、消え入りそうに思われる。
あの方の言葉がうれしいので出かけて行ったら、裳を引いた跡がはっきりわかってしまうだろう。雪よ、降らないでおくれ。
梅の花とも見分けがつかないほど降る雪のように、はっきりと人に知られてしまうだろう。使いを遣ったならば。
空を曇らせて降ってくる雪のように消えてしまいそうだけれども、あなたに逢おうと、生きながらえている。
跡見山の雪がはっきりと白いように、はっきりと人目につくように恋い慕ったならば、恋人の名を人が知ってしまうだろうか。
泊瀬の山に降る雪のように、長い日々恋い慕ってきたあなたの足音がする。
和射見の峰を越えて降る雪のように、厭わしいことも何もないと、あの子に申し伝えておくれ。
我が家に咲いた梅を、月夜が美しいので、毎晩見せたいと思うあなたをこそ待っている。
山の嵐は吹いていないけれども、あなたのいない夜は、前もって寒く感じられることだ。