大和物語
笛竹の一節ほどのひと夜でも、あなたと寝ない夜は、さまざまな声を上げて泣かずにいられない。
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さまざまな音は、言葉を吹き鳴らしているだけなのか。笛竹のこちくの声さえ聞こえてこないのに。
逢って別れるということがなかったなら、あれこれと物思いをすることもなかっただろうに。
どうしてあれこれと物思いができるのだろう。名残もないほどに、私は悲しいというのに。
草の葉にかかる露のような身であるからだろうか。心が動くだけで涙が落ちるのだろう。
春の野に緑濃く映えるさねかずら。そのように、あなたを私の第一の人と頼みたいが、いかがでしょうか。
行く末の宿縁も知らずに、私が昔に約束したことは、今も思い出されますか、あなた。
かささぎの渡す橋の霜の上を、夜半に踏み分けて、ことさらにこそ参ったのです。
わが家のひと群れのすすきは、まだ穂先が若いので、結ぶ時期にはまだ早いのだった。
ぬばたまのように黒かった私の髪は、白川の水を汲むまでの身に成り果ててしまったことだ。
鹿の声はどれほどの紅色なのだろう。声を振り出すたびに、山が染まっていくようだ。
大海の中に立っている牡鹿よ——秋の山辺が、その底に見えているのだろうか。
人を待つこの家は暗くなってしまった。約束した月のうちに、あなたが現れないので。
秋風の心がつれないからだろうか。花すすきは、風の吹いてくる方をまず背くようだ。
春はただ昨日までだと、うぐいすが期限を切ったかのように、鳴かない今日であることだ。
照る月を弓張と言うのは、山辺を狙って射るように沈んでいくからなのだった。