大和物語
誰もがその香りを賞美する藤袴を、あなたおひとりのためにと手折った今日であることだ。
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折った人の心が通っている藤袴だから、なるほど色もことに美しく匂っているのだった。
誰の禊のゆふつけ鳥だろうか。唐衣を裁つ、その竜田の山で、長々と鳴き続けている。
竜田川の岩の根をめざして流れていく水のように、行方も知らない私のように泣いているのか。
安積山の影までも映って見える山の井のように、浅い心で人を思うものだろうか。
私の心は慰めかねてしまった。更級の姥捨山に照る月を見て。
舟も行ってしまった。真楫も見えないだろう。今日からは、この憂き世をどうやって渡っていけばよいのだろう。
私もそのように鳴いて人に恋われたものだ。今はよそごととして、ただ声を聞くばかりだ。
雲鳥の綾の色も思い浮かばない。あなたに逢わないまま年が経ってしまったので。
秋萩を色づける風が吹いたので、あなたの心も疑わしく思われるのだった。
秋の野を色づける風は吹いたとしても、私の心は枯れまい。草葉ではないのだから。
大幣のようになってしまった人の悲しさは、寄る瀬もなく、そのように泣いているということだ。
流れていっても、何と見えるだろうか。手に取って引いた人こそが、それを幣と知っているのだろう。
思いがあるのなら、葎の生い茂る粗末な家に寝ることもしよう。敷物には袖を敷いてでも。
大原の小塩の山も、今日こそは神代のことを思い出しているだろう。
忘れ草の生える野辺とご覧になるでしょうが、これは忍ぶ草なのです。後々も頼みに思いましょう。