平家物語
東国の草葉を分けて行くあなたの袖よりも、旅立たない私の袂のほうが、露がこぼれ落ちることだ。
詳細を見る
別れ道を何を嘆くことがあろうか。これから越えて行く関も、昔の跡だと思えば。
平屋の棟守は、どんなに騒いでいることだろう。柱と頼みにしていた助柱を落として。
富士川の瀬々の岩を越えていく水よりも、なんと早く落ちていく伊勢平氏であることよ。
富士川に鎧は捨ててしまった。墨染の衣をただ着なさい、後の世のために。
忠清は逃げの馬に乗ってしまった。上総は尻繋をかけても甲斐がない。
いつも見送ってきた君の御幸を、今日はどちらへとお尋ねすると、帰らぬ旅だと聞くのが悲しい。
隠していたけれど、顔色に出てしまった、私の恋は。物思いをしているのかと人が尋ねるほどに。
思いに耐えかねて心は上の空だ。陸奥の千賀の塩竈ではないが、近くにいる甲斐がまるでない。
手紙を、今はもう手に取ることさえしないというのか。それほどまでに、心では思い捨てているとしても。
夜泣きをするというが、忠盛よ、ただ守り立てて育てよ。末の世に、清く栄えることもあるだろうから。
神に捧げた祈りがかなったからであろうか、はっきりとそのしるしが色となって現れたことだ。
平らかに花の咲いていた宿も、年月が経てば、西へ傾く月と見えることだ。
どうしたらよいだろう、藤の末葉が枯れてゆくのを。ただ春の日にまかせて、それきりにしてしまおうか。
志賀の都は荒れ果ててしまったのに、昔のままに山桜が咲いていることだ。
名残の尽きぬまま別れるあなたの、その名残を、後々の形見として包んでおくことだ。