平家物語
立ち帰るにも名残がある、その名も有の浦なのだから、神も恵みをかけて、こうして白波をかけてくださるのだろう。
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千年を経るであろう君の齢にあやかろうとして、藤の花房も松の枝にかかっているのだなあ。
白波のように白い衣の袖を涙で絞りながら、あなたゆえに、立って舞うこともできないのです。
思いやってくれ。立つ波が寄せてくるたびに、あなたの面影が浮かんで、涙に濡れる私の袂を。
恋しいなら来て見るがよい。我が身に添っている影を、どうして手放してやることができようか。
山法師の織延の衣は薄くて、その恥を隠すこともできなかったことだ。
織延の絹を一切れも得られなかった我らまでもが、薄い恥をかく者の数に入ってしまうことだ。
伊勢武者はみな緋縅の鎧を着て、宇治の網代にかかってしまったことだ。
埋もれ木のように、花が咲くこともなかった身であるのに、その果てに実がなるとは、悲しいことだ。
人に知られない大内山の山守は、木の陰に隠れたまま、ただ月を見上げるばかりである。
昇るための手だてのない身は、木の下でしいの実を拾って、この世を渡っていくばかりだ。
百年を四度めぐるまで過ぎてきた、この愛宕の里も、荒れ果ててしまうのだろうか。
咲き誇る花の都を振り捨てて、風の吹く原へ移る、その行く末が危ういことだ。
待つ宵に、更けていく鐘の声を聞くことに比べれば、帰る朝の鶏の声などものの数ではない。
ものの数ではないとあなたが言ったという鶏の声が、今朝にかぎって、どうしてこんなに悲しいのだろう。
待つ身であってこそ、更けていく鐘もつらいのでしょう。今朝は、帰る朝の鶏の声のほうが辛いのです。