平家物語
呉竹の筧を流れる水は入れ替わってしまうけれども、それでもなお、住み飽きることのないこの宮の内であることよ。
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哀れなことだ。老木も若木も同じ山桜、遅れるも先立つも、花はどれも残りはしないだろう。
旅衣の袖を夜ごと独り敷いて寝ながら、思えば私は遠くへ行ってしまうのだろう。
はかないことだ。主人が雲居の彼方へ別れてゆけば、その宿は煙となって立ちのぼることだ。
故郷を焼野の原と見返しながら、行く末もまた煙のような、波の路を行くことだ。
せめて一声は、思い出して鳴いてくれ、ほととぎすよ。老蘇の森の、あの夜半の昔を。
籠の中の身さえ、なおうらやましい。山雀のように身のほどを隠して暮らす、この夕顔の宿にいる私には。
住み慣れた古い都の恋しさは、神もまた昔のご自身のこととして、思い知っておられるだろう。
世の中のつらさに対しては神も力の及ばぬものを、何を祈るのか、そのように心を尽くして。
そうはいってもまだ望みはあると思う心も、虫の声も、すっかり弱り果ててしまった秋の暮れであることよ。
共に月を見た去年の今宵の友だけが、都で私を思い出してくれているだろうか。
恋しいことだ。去年の今宵、夜通し語り合って約束を交わしたあの人が、思い出されて。
分け入ってきた野辺の露と共に消えることもなく、思いもかけぬ里で月を見ていることだ。
今日まで生きてはいても、あるかないかもわからないような我が身であるのに。夢の中で、さらに夢を見ているようなことだ。
人に知られずそちらを思い慕うこの心を、西へ傾く月に添えて送ることだ。
武士が代々受け継いできた梓弓は、引くものであって、引き返すようなものではない。