源氏物語 - 紫式部
岸を遠く離れて漕ぎ出していく海人の舟に、乗り遅れまいと心が急がれることだ。
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心こそはつらいこの世の岸を離れたけれど、行方も知れない海人の浮木のようなこの身なのに。
木枯らしが吹きぬけた山の麓には、身を隠すほどの木蔭さえもない。
待っている人もいないだろうと思う山里の梢を見ながら、それでもやはり通り過ぎがたい。
世間一般を捨てて出家なさったあなたではあるけれど、その厭うことにかこつけて、私の身がつらく思われる。
空を暗くして降る野山の雪を眺めても、過ぎ去った昔のことが、今日もまた悲しく思われる。
山里の雪の間から出た若菜を摘んで賞美していると、やはりあなたの行く末が頼もしく思われることだ。
雪の深い野辺の若菜も、これからはあなたのために、年ごとに摘むことにしよう。
袖を触れたあの人の姿は見えないけれど、花の香がその人かと思うほどに匂ってくる春の明け方であることよ。
かつて見た人の面影もとどまらない水の上に、落ち添う涙をいっそう抑えることができない。
尼衣に変わったこの身であっても、かつての世の形見として、その袖にすがって偲ぼうか。
仏法の師を訪ねて行く道を導きとして、思いもかけない山に踏み迷ってしまったことよ。