源氏物語 - 紫式部
あなたの心を嘆いたりはしないだろう。定めがないのは命だけの世だと思うことができたなら。
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これまでにないほど道に迷ってしまいそうだ。先に流れ出る涙が、行く道までも暗くしてしまって。
涙さえも狭い袖ではせき止めきれないのに、どうして別れを引き止められる身であろうか。
宇治橋のように末長い約束は朽ちはしないのだから、危ういほうにばかり心を騒がせるな。
途切れてばかりで世に危ういと言われる宇治橋なのに、朽ちないものだとやはり頼りにせよとおっしゃるのか。
年を経ても変わるものだろうか。橘の小島の崎で誓うこの心は。
橘の小島の色は変わらないだろうけれど、水に浮かぶ舟のようなこの身は、行方も知れない。
峰の雪も水際の氷も踏み分けて来た。道には迷わないが、あなたには心を惑わせている。
降り乱れて水際に凍る雪よりも、私は空の途中で消えてしまいそうだ。
眺めやるそちらの方角の雲さえ見えないほど、空までも暗くなるこのころの心細さよ。
水かさの増す遠くの里に住む人はどうしているだろう。晴れることのない長雨に、暗く過ごしているこのごろは。
里の名を我が身に引き当てて思えば、山城の宇治のあたりは、いっそう住むのがつらい所だ。
空を暗くして晴れることのない峰の雨雲に、浮いたまま世を過ごすこの身を、いっそ変えてしまいたい。
所在なく、我が身のつらさを知らせる雨が降りやまないので、袖までもいっそう水かさが増している。
波が越えるころだとも知らずに、末の松山のようにあなたが待っていてくれるとばかり思っていたことだ。
どこに我が身を捨てようかと思いながら、白雲のかからない山でも、泣く泣く越えて行くことだ。