源氏物語 - 紫式部
大空の月さえ宿るこの私の家に、待つ宵は過ぎたのに姿の見えないあなたであることよ。
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宇治の山里の松の蔭でも、これほど身にしみる秋の風は経験しなかった。
女郎花はいっそうしおれている。朝露がどのように置いていった名残なのだろう。
宇治にいたなら何気なく聞いていただろうに、ひぐらしの声が恨めしく聞こえる秋の暮であることよ。
見渡すかぎり世間に認められない仲なのに、たびたび逢っていると言われる評判が惜しまれる。
表面は深くないように見えるけれども、関川の水底の流れが絶えないように、私の心が絶えることはない。
むだに草を分けて通った道の露が多いので、昔のことが思い出される秋の空模様であることよ。
ほかの男に馴れ親しんだ袖の移り香を、身にしみるほど深く恨んだことだ。
馴れ親しんだ二人の仲だと頼みにしてきたのに、これほどのことで離れてしまうのだろうか。
結んだ契りが私とは別のものである下紐を、ひたすら一途に恨んだりするだろうか。
昔泊まった宿だと思い出さなかったら、木のもとの旅寝はどれほど寂しかっただろう。
荒れ果てた朽木のもとを、かつて泊まった宿だと思っていてくださるほどの、その悲しさである。
穂に出さないまま物思いをしているようだ。招くように揺れる篠薄の袂には、露が多くおりている。
秋が終わる野辺の様子も、篠薄をわずかに揺らす風によってこそ知られる。
帝の插頭にと折ろうとして、藤の花の手の届かない枝に袖をかけてしまった。
幾万年にわたって咲き匂うはずの花なのだから、今日もまた見飽きることのない色として見るのだ。