源氏物語 - 紫式部
あっけないものだ。喪服を裁ったと思う間に、花が咲きほどける季節が来てしまった。
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花を見る人もいなくなるだろう、嵐に吹き乱される山里に、昔を思い出させる花の香が漂っている。
袖を触れた梅は変わらない香りなのに、根ごと移っていく宿の方が違ってしまうのだろうか。
何を言うより先に流れ出る涙の川に身を投げていたなら、あの人に後れずにすむ命だっただろう。
身を投げるという涙の川に沈んだとしても、恋しい人と過ごした折々を忘れることはあるまい。
誰もが急いで旅立とうと衣を裁っているところで、ただ一人涙に濡れている尼であることよ。
涙に濡れる尼の衣と何が違うだろう。頼りない行く先を思って濡れている私の袖も同じことだ。
生き長らえていればうれしい折にも出会えたのに、もし宇治川に身を投げてしまっていたらどうなっていただろう。
亡くなった方が恋しい気持ちは忘れないけれど、今日は何よりもまず心が晴れることだ。
考えてみれば、山から出て空を渡っていく月も、この世に住みづらくなって山に帰っていくのだ。
琵琶湖に漕ぎ出す舟の帆のように、まともな形ではなかったが、あの人と逢い見たことはあったのに。
ありふれた家の垣根に咲いている花ならば、思うままに手折って眺めることもできるだろうに。
霜に耐えられずに枯れてしまった園の菊だが、残された色はあせていないことだ。
今朝のわずかな間の色を賞美しようか。置いた露が消えないうちだけ咲いている花だと見ながら。
姉君に見立てて自分のものとして見るべきだった。白露が契りを結んで置いていった朝顔の花なのだから。
露が消えないうちに枯れてしまう花のはかなさよりも、後に残る露のほうがいっそう頼りない。