源氏物語 - 紫式部
私がこうしてつらい世の中をめぐり生きているとしても、月の都にいる人たちは誰が知ろうか。
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あだし野の風になびいてくれるな、女郎花よ。私が標縄を張って囲おう、道は遠くとも。
移し植えられて思い乱れることもない女郎花である。つらい世に背を向けた草の庵で。
松虫の声を訪ねて来たけれども、また萩原の露に踏み惑ってしまった。
秋の野の露を分けて来た狩衣の濡れようを、葎の茂るこの宿のせいにしないでほしい。
夜更けの月をしみじみと眺めない人だから、山の端に近いこの宿に泊まらないのだろうか。
月が山の端に入るまで眺めていよう。閨の板間から光が漏れる、そのしるしがあるかと思って。
忘れられない昔のことも、笛の竹の節のようなつらい折々にも、声を上げて泣いてしまった。
笛の音によって昔のことも思い出されて、あなたがお帰りになった折にも袖が濡れたことでした。
頼りなくこの世を過ごしてきて、あのつらい川瀬には、もう尋ねて行くまい。二本の杉のもとへは。
古川の杉の生い立ちは知らないけれど、亡くなった人になぞらえて見ているのです。
心には秋の夕暮れをことさら選び分けているわけでもないのに、眺めている袖に涙の露が乱れ落ちる。
山里の秋の夜更けのしみじみとした趣も、物思いをする人こそが思い知るものだ。
つらいものとも思い知らずに過ごしているこの身を、物思いをする人だと、人は思っていたのだ。
自分も人ももういないものと思いながら、一度捨てたはずのこの世を、さらに捨ててしまった。
これで最後だと思い定めたこの世を、繰り返し繰り返し背いてしまったことだ。