万葉集
靫を背負う武人たちが大勢いる大伴氏のもとで、国が栄えるようにと、月は照っているらしい。
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穴師川に川波が立った。巻向の弓月が岳に雲が立ちのぼっているらしい。
山の川の瀬が音高く鳴るにつれて、弓月が岳に雲が一面に立ちわたってゆく。
大海には島一つないのに、海原のゆらゆらと揺れ動く波の上に立っている白雲よ。
愛しい妻の赤い裳の裾がきっと濡れていることだろう、その今日の小雨に、私も一緒に濡れよう。
衣を通って肌まで届くほどには、雨よ降らないでくれ。愛しい妻の形見の衣を、私は下に着ているのだから。
評判ばかりを聞いていた巻向の檜原の山を、今日こそこの目で見たことよ。
三諸の山のその山並みに、巻向山が続いているさまは、実に好ましいことよ。
私の衣をその色に染めよう。三室の山は黄葉して色づいたことだ。
神を祭る三輪山を見ると、泊瀬の檜原が自然と思い出されることよ。
遠い昔のことは知らないが、私が見るようになってからでさえ、長い年月が経った、天の香具山よ。
愛しいあの方をこちらへ来させる巨勢山だと人は言うけれど、あの方はいっこうにいらっしゃらない。それは山の名ばかりのことらしい。
紀伊へ向かう道にこそ妹山があると人は言うけれど、二上山にも妹の山があったのだなあ。
片岡のこの向かいの峰に椎の実を蒔いたら、今年の夏の木陰になるだろうか。
巻向の穴師の川を流れてゆく水が絶えることのないように、絶えることなく、また立ち返ってこの地を見よう。
夜がやって来ると、巻向の川の音が高く響くことよ。山から吹き下ろす嵐が激しいのだろうか。