万葉集
月草で衣を摺り染めよう。朝露に濡れた後で色が褪せてしまうとしても。
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私の心はゆらゆらと揺れ動いて、浮いている蓴菜のように、岸辺にも沖にも寄りつくことができそうにない。
石上の布留の早稲の田は、まだ穂が出ていなくても、せめて縄だけでも張っておけ。私は番をし続けていよう。
白菅の生える真野の榛原の榛を、心にも思っていなかった私が、衣に摺り付けてしまった。
立派な木の柱を作る杣人は、かりそめに仮小屋のためにと思って作ったことがあろうか。
向かいの峰に立っている桃の木は実がなるだろうかと、人がささやいている。あなたの心よ、決して油断するな。
母の畑にある桑でさえも、願えば衣として着られるというのに。
ああいとしい我が家の毛桃は、根もとまで茂って、花ばかり咲いて実がならないことなどあろうか。
向かいの峰の若い桂の木の下枝を手に取って、花が咲くのを待つ間に、嘆いてしまったことよ。
命をかけて思っている私なのに、山ぢさの花のように、あなたは心変わりしてしまったのだろうか。
住吉の浅沢の野のかきつばたを、衣に摺り付けて着る日はいつのことかわからないことだ。
秋になったら移し染めにもしようと思って私が蒔いた韓藍の花を、誰が摘んでしまったのだろうか。
春日野に咲いている萩は、片方の枝はまだつぼみのままだ。言葉を絶やさないでおくれ。
見たいと思い、恋しく思いながら待っていた秋萩は、花ばかり咲いて実はならないのだろうか。
愛しい妻の家の秋萩は、花の時よりも、実になってからの方がいっそう恋しさがまさることだ。
明日香川のいくつもの瀬の淀みに住む鳥も、思う心があるからこそ、波を立てないでいるのだろう。