万葉集
大海の水底を照らして沈んでいる玉を、身を清め慎んで採ろう。風よ、吹かないでおくれ。
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水底に沈んでいる白玉よ、ほかの誰のために心を尽くして私が思っているというのでもないのに。
世の中はいつもこのようなものなのか。しっかりと結んでおいた白玉の緒が切れてしまうことを思うと。
伊勢の海の海人の島津が採る鰒玉のようなあの人を、手に入れた後も、恋しさはしきりに募るのだろうか。
海の底、沖の白玉を手に入れる手立てがないので、いつもこのようにばかり恋い続けてゆくのだろうか。
心を込めて深く思って結んだ玉の緒だと言えば、人が解くだろうか。解きはしない。
白玉を手には巻かないで、箱にばかりしまっておいた人こそが、玉を嘆かせるのだ。
照左豆が手に巻いて古びさせた玉がほしいものだ。その緒は替えて、私の玉にしよう。
秋風よ、続けて吹かないでくれ。海の底、沖にある玉を手に巻くまでは。
膝の上に横たえる美しい琴の、その「こと」ではないが、差し障りさえなければ、これほどひどく私が恋い焦がれることがあろうか。
陸奥の安達太良の真弓に弦をかけて引くように、あの人の気を引いたなら、人が私のことを噂し立てるだろうか。
南淵の細川山に立っている檀の木よ、弓束を巻いて弓に仕上げるまでは、人に知られまい。
岩が重なって恐ろしい山だと知りながらも、私は恋い慕うことか。並の相手ではないのに。
岩の根がごつごつと険しい山に入り始めて、山に心ひかれるので、出てゆくことができないことよ。
佐保山をなにげなく見ていたが、今見ると、山に心ひかれることだ。風よ、決して吹くな。
奥山の岩に苔が生えているように恐れ多いけれど、思い慕うこの心をどうしたらよいのだろうか。