万葉集
春になると卯の花を踏みしだいて私が越えて行った恋人の家の垣根の間は、今は荒れてしまったことだ。
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梅の花が咲いては散る園に私は出かけよう。あなたからの使いをひたすら待ちがてら。
藤の花が波のように咲く春の野に這う葛の根が地下に伸びるように、心の中でひそかに恋い続けるなら、長くかかることだろう。
春の野に霞がたなびき、花が咲いて、このようになるまで逢ってくれないあなたであることよ。
私があなたを恋い慕う思いは、奥山の馬酔木の花のように、今が盛りである。
梅の花をしだれ柳に折り交ぜて、花として供えたならば、あなたに逢えるだろうか。
佐紀野に生える白つつじのように、知らないことを口実にして人に噂されたあなたよ。
梅の花を私は散らすまい。奈良にいるあの人もやって来ては見てくれるだろうから。
こうなるのだったら、どうして山吹を植えたのだろうか。やむ時もなく恋しく思うことを考えると。
春になると水草の上に置く霜がすぐ消えていくように、消え入るような思いをしながらも、私は恋い続けることだ。
春霞が山にたなびいてぼんやりしているように、ほのかにあの子を見ただけで、後にはきっと恋しく思うことだろう。
春霞が立った日から今日まで、私の恋はやむことがない。根元がしきりに茂っているので。
頬の赤く美しいあの子を思うとして、霞の立つ春の日も心が暗くなるほどに、恋い続けることだ。
我が家の山の上に立つ霞のように、立つにしても座るにしても、すべてあなたの思うままに従おう。
見渡すと春日の野辺に立っている霞のように、いつまでも見ていたいと思うあなたの姿であることよ。
恋しく思いながらも今日は何とか過ごした。霞の立つ明日の春の日を、どのようにして過ごしたらよいのだろう。