源氏物語 - 紫式部
年が暮れて岩間の泉の水も凍り閉ざされ、見慣れた人の姿も薄れていくことよ。
詳細を見る
自分の心から、あれこれと袖を濡らすことよ。夜が明けたと知らせる声を聞くにつけても。
嘆きながら私の一生はこうして過ごせということなのか。胸の晴れる時とてないままに。
逢うことの難しさが今日だけのことでないのなら、この先いくつの世を嘆きながら過ごすことになるのだろう。
来世まで続く恨みを私に残すとしても、一方ではご自分の心こそ移ろいやすいものだと知ってほしい。
浅茅の生い茂る露のような仮の宿にあなたを残してきて、四方から吹く嵐に心が落ち着かない。
風が吹けば真っ先に乱れるのです。色の変わった浅茅の露にかかっている蜘蛛の糸は。
口に出すのは恐れ多いことだが、あの昔の秋が思い出される木綿欅であることよ。
あの昔とはどのようなものだったのでしょう。木綿欅を心にかけて偲んでおられるという、そのわけは。
宮中に霧が隔てているのだろうか。雲の上の月をはるかに思いやることよ。
月の光は昔見た秋と変わらないのに、隔てている霧がつらく思われることよ。
木枯らしが吹くたびにお待ちしているうちに、心もとない思いのまま月日が経ってしまいました。
逢わずに堪えているこのごろの涙をも、ありふれた空の時雨と同じものと見ておられるのだろうか。
死に別れた今日という日はめぐって来たけれど、あの方に行き逢える時をいつと頼みにすればよいのだろう。
生き長らえている間はつらいけれど、めぐりめぐって今日はあの当時に逢う心地がして。
月の澄む雲の上を心にかけてお慕いしても、この世の闇になお迷い続けるのだろうか。