源氏物語 - 紫式部
あなたがいなくなって塵の積もった床の上で、露を払いながら幾夜を寝ずに過ごしたことだろう。
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わけもなく隔てを置いていたことだ。幾夜も重ねて、さすがに馴れ親しんできた夜の衣であるのに。
幾年もの間、今日という日に新しく改めてきた晴れ着だが、着ると涙が降るような心地がする。
新しい年だともかまわず降りつづけるものは、年老いた者の涙なのだった。
この神垣にはそれと示す杉もないのに、どう見間違えて榊を折ってこられたのですか。
神に仕える少女のいるあたりと思うので、榊の葉の香をなつかしんで、それをたよりに折ったのです。
明け方の別れはいつも涙がちなものだが、これはこの世に知らないほどの秋の空であることよ。
ただでさえ秋の別れは悲しいのに、鳴き声を添えないでほしい。野辺の松虫よ。
この国土を守る国つ神にも心があるのなら、名残の尽きないこの別れの仲を裁いてほしい。
国つ神が空の上から裁く仲だというのなら、まずはそのいい加減な言葉のほうを糾されるでしょう。
昔のことを今日は口にすまいとこらえているけれど、心のうちではやはり悲しく思われる。
振り捨てて今日は行かれるとしても、鈴鹿川の多くの瀬の波に、袖は濡れないでしょうか。
鈴鹿川の多くの瀬の波に濡れようと濡れまいと、伊勢まで誰が思いを寄せてくださるでしょうか。
去っていく方角を眺めやりたい。この秋だけは、逢坂山を霧で隔てないでほしい。
蔭が広いと頼りにしていた松は枯れてしまったのだろうか。下葉が散っていく年の暮であることよ。
一面に凍りついた池は鏡のように澄んでいるのに、見慣れた姿が映らないのが悲しい。