源氏物語 - 紫式部
世の中一般のつらさにつけては厭い離れたけれど、いつになればこの世を完全に背き果てられるのだろう。
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物思いに沈んで海松を刈る海人の住まいと見るなり、まず涙にくれる松が浦島であることよ。
昔のなごりさえない浦島に、立ち寄ってくれる波が珍しく思われることよ。
あのようでありたいと思う、今朝咲いたばかりの初花に劣らないあなたの美しさを見ることよ。
時ならず今朝咲いた花は、夏の雨にしおれてしまったらしい。美しく匂う間もなく。
昔に立ち返って、どうしても懐かしまずにいられない。ほととぎすよ、かつてわずかに言葉を交わしたこの家の垣根では。
ほととぎすの訪ねてくる声はそれに違いないけれど、ああ心もとない。五月雨の空であることよ。
橘の香がなつかしいので、ほととぎすは花の散るこの里を探し当てて訪ねてきたのだ。
人の訪れもなく荒れはてたこの家では、橘の花だけが、軒に人を招く手がかりとなっているのでした。
鳥辺山で燃えた煙にも似ているかと思って、海人が塩を焼く浦を見に行くのだ。
亡き人との別れは、いっそう遠くなってしまうのだろうか。煙となって上っていった空でなくては。
この身はこうしてさすらうことになっても、あなたのそばを去らない鏡に映る姿は、離れることはあるまい。
別れても、せめて姿だけでも留まるものならば、鏡を見て慰められもしましょうに。
月の光の宿る袖は狭くとも、留めて見ていたいものです。見飽きることのないその光を。
めぐりめぐって、ついには澄んで照るはずの月の光が、しばらく雲に隠れているからといって、その空を眺めて嘆かないでほしい。
逢う瀬もない涙の河に沈んだことが、こうして流されていく身の始まりだったのだろうか。