源氏物語 - 紫式部
涙の河に浮かぶ水の泡も消えてしまうでしょう。流れた後にまた逢う瀬が来るのを待たずに。
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見た人はもういなくなり、残っている者は悲しいという、この世の果てを、出家した甲斐もなく泣きながら過ごしております。
お別れしたときに悲しみは尽きたと思っていたのに、またこの世のつらさは増していくのだ。
供を引き連れて葵を挿頭にしたあの昔を思うと、つらいことだ、この賀茂の瑞垣は。
つらいこの世に今こそ別れを告げる。後に残るであろう名は、糺の神にお任せして。
亡き父上の御霊はどのようにご覧になっているだろうか。なぞらえて眺めていた月も、雲に隠れてしまった。
いつになったらまた、春の都の花を見ることができるだろう。時勢を失った山賤の身となって。
咲いてすぐ散るのはつらいことだけれど、過ぎ行く春には、花の都に立ち帰って見てください。
生きている間の別れというものを知らないまま契りを交わして、命ある限りはと、その限りを人に置いていたことだ。
惜しくもないこの命に代えてでも、目の前のこの別れを、しばらく引き留めておきたいものです。
唐の国に名を残したという人よりもさらに、行方も知られない住まいを構えることになるのだろうか。
故郷を峰の霞は隔てているけれど、眺めるこの空は同じ空なのだろうか。
松島の海人の苫屋もどうしておられるだろうか。須磨の浦人が涙に濡れているこのごろは。
懲りもせず、その浦の海松布を見たいと思う気持ちを、塩を焼く海人はどう思うだろうか。
涙に濡れることを仕事のようにして、松島に年を重ねる海人もまた、嘆きを積み重ねております。
浦で火を焚く海人でさえ包み隠す恋なのですから、くすぶる煙には行き場もありません。