源氏物語 - 紫式部
浦人が潮を汲む袖と比べてみてください。波路に隔てられた夜の衣の濡れようを。
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つらい思いをしながら海松布を刈る伊勢の海人を思いやってください。藻塩に濡れるという須磨の浦にいらっしゃって。
伊勢島の潮の引いた干潟で漁をしても、貝一つ拾えず言う甲斐もないのは、この我が身なのでした。
伊勢の人が波の上を漕ぐ小舟にも、つらい目に遭わずに乗ることができたらよかったのに。
海人が積む投げ木のような嘆きの中で涙に濡れながら、いつまで須磨の浦で物思いにふけるのだろうか。
いよいよ荒れていく軒の忍草を眺めながら、しきりに露のかかる袖であることよ。
恋い焦がれて泣く声と聞き分けられない浦波は、思う人のいる方角から風が吹いてくるからだろうか。
初雁は恋しい人々の列なのだろうか。旅の空を飛ぶその声が悲しく聞こえることよ。
列をなして飛ぶ姿に、昔のことが思い出される。雁はあの当時の友ではないけれども。
自ら進んで常世を捨てて鳴く雁のことを、これまでは雲の彼方の他人事とばかり思っていたことだ。
常世を出て旅の空にある雁も、列に遅れずにいる間は慰められるのだ。
見ている間だけはしばらく慰められる。めぐり逢うはずの月の都は、はるかに遠いけれども。
つらいとばかり一方的に思われるのでもなく、左右どちらの袖も濡れることだ。
琴の音に引き留められる綱手縄のように、ためらう心を、あなたはご存じでしょうか。
本当に心があって引き手の綱がためらうのなら、須磨の浦波を通り過ぎたりなさるでしょうか。
山賤の庵で焚く柴のように、たびたび訪ねてきてほしいものだ。恋しく思う都の人よ。