万葉集 - 柿本人麻呂
天の川の水までも照り輝く舟が岸に着いて、その舟にいる人は、妻と逢うことができただろうか。
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天の川原で、ぬえ鳥が鳴くように、心の中で嘆いておいでになった。どうしようもないほどに。
私の恋心を妻は知っているのに、行く舟がそのまま通り過ぎて来てよいものか。せめて言葉だけでも伝えてほしい。
赤く照り映える美しい娘をたびたび見ていると、人の妻であるのに、私は恋してしまいそうだ。
天の川の安の渡し場に舟を浮かべて、秋の来るのを待っていると、妻に伝えておくれ。
大空を通って行き来する私でさえも、あなたのために、天の川の道を難儀しながらやって来たのだ。
八千桙の神の御代から逢うことの少ない妻であったが、人に知られてしまった。絶えず思い続けているので。
私が恋い慕う、頬の赤く美しい顔のあの人は、今夜も天の川原で石を枕にして寝ているのだろうか。
自分の夫になかなか逢えない娘は、舟の着くはずの港の荒磯を枕にして寝ることだろう。あなたを待ちかねて。
天と地が分かれた時から、自分の妻である。そのように年に一度ある秋を待っているのだ、私は。
彦星は嘆いておいでになる妻に、せめて言葉だけでも伝えようとやって来たのだ。その姿を見るのがつらいので。
天の定めのしるしとして、水のない川を隔てにして置いた神代が恨めしい。
夜霧に隠れて遠く離れていても、妻からの伝言は早く知らせておくれ。
あなたが恋い慕う妻の君は、名残惜しそうに袖を振るのが見えた。雲に隠れてしまうまで。
宵の明星も行き来する天の道を、いつまで仰いで待つのだろうか、月の若者よ。
天の川に向かい合って立って、恋しさのあまり、せめて言葉だけでもかけよう。妻と呼べる時が来るまでは。