万葉集 - 柿本人麻呂
白玉をたくさん連ねた緒を解いてもみずに、私は袖を乾かしかねている。逢う日を待っているので。
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天の川の水辺の草が秋風になびいているのを見ると、逢瀬の時はやって来たのだった。
私が待っていた秋萩が咲いた。今すぐにでも、萩の花に染まって出かけて行こう、川の向こうの人のもとへ。
あの方を心の中で恋しく思っていると、天の川を夜舟で漕いでいるらしい楫の音が聞こえてくる。
長い間恋い慕ってきた心のせいか、秋風に乗って妻の声が聞こえる。衣の紐を解いて行こう。
恋しく思う日々は長いものであるのに、今でさえも物足りなく思わせてよいものか。せめて逢うべき夜ぐらいは。
天の川の去年の渡り瀬が移り変わってしまったので、浅瀬を探して踏み歩くうちに夜が更けてしまった。
昔から織りかけていた機も顧みずに、天の川の渡し場で年月が過ぎてしまった。
天の川を夜舟で漕ぎ渡って、夜が明けてしまうとしても、逢おうと思う今夜、袖を交わさずにいられようか。
遠く離れていた妻と手枕を交わして寝た夜は、鶏よ、鳴いてくれるな。夜が明けるなら明けてしまってもかまわないが。
逢うことにはまだ満ち足りないけれども、夜が明けてきてしまった。舟出をしよう、妻よ。
共寝を始めてからまだいくらも経っていないのに、白い帯を返せと求めてよいものか。恋しさもまだ晴れていないのに。
万年もの間手を取り合って一緒にいて逢い続けたとしても、思いが晴れてしまうような恋ではないのに。
万年も照り続けるはずの月も雲に隠れてしまうように、逢えないのは苦しいものだ。逢おうと思うけれども。
白雲が幾重にも重なって隠れ、遠く離れていても、毎晩欠かさず見よう、妻の住むあたりは。
私のためにと、織女がその家で織っている白い布は、もう織り上がっただろうか。