万葉集
天の川に霧が一面に立ちこめて、彦星の舟の楫の音が聞こえてくる。夜が更けてゆくと。
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あなたの舟が今漕いでやって来るらしい。天の川に霧が一面に立ちこめている、この川の瀬に。
秋風に川波が立ってきた。しばらくの間は、数多くある舟着き場のどこかに舟を留めてください。
天の川の川音が清らかに響いている。彦星が秋に漕ぐ舟の立てる波のざわめきであろうか。
天の川の渡り口に立って私が恋い慕っていたあなたがおいでになるようだ。紐を解いて待とう。
天の川の渡り口にいて、長い年月恋い慕ってきたあなたに、今夜ようやく逢えたことよ。
明日からは、私の美しい寝床を掃き清めても、あなたと共寝することなく、ひとりで寝ることになるのだろうか。
天の原に出て行って射ようとして、白木の弓を引いて隠れている月の若者よ。
この夕べに降ってくる雨は、彦星が急いで漕ぐ舟の櫂からしたたり散るしぶきであろうか。
天の川の多くの瀬に霧が立ちこめている。彦星の、その時を待っていた舟は、今まさに漕ぎ出したらしい。
風が吹いて川波が立ってきた。引き船で渡っておいでください。夜の更けないうちに。
天の川は遠い渡しではないけれども、あなたの舟出は一年に一度だけしか待てないのだ。
天の川に板の橋を渡しておくれ。妻の家への道を、絶えず通おう。逢瀬の時を待たなくとも。
幾月も重ねて思い続けてきた妻に逢えた夜は、今こそ七夜も続いてくれないものか。
一年に一度装いを整える私の舟を漕ごう。天の川よ、風は吹いても、決して波は立つな。
天の川に波は立っても、私の舟はさあ漕ぎ出そう。夜が更けないうちに。