万葉集
天の川の瀬の流れが速いからだろうか、夜は更けていくのに、まだ逢えずにいる彦星よ。
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渡し守よ、早く舟を渡しておくれ。一年に二度も通って来るあなたではないのだから。
玉葛のように絶えることのない仲であるのに、共寝するのは一年の渡りにただ一夜だけである。
恋い慕う日々は長いものであるのに、せめて今夜だけでも物足りない思いをさせてよいものか。逢うべき夜なのに。
織女が今夜逢ってしまったならば、いつものように、明日からは隔てられて一年は長いことだろう。
天の川に棚橋を渡しておくれ。織女がお渡りになるために、棚橋を渡しておくれ。
天の川には渡り口がたくさんある。そのどこで、あなたの舟を私は待っていればよいのだろう。
秋風が吹き始めた日から、天の川の瀬に出て立って待っていると、あの方に伝えておくれ。
天の川の去年の渡り瀬は荒れてしまった。あなたがおいでになるはずの道がわからないことだ。
天の川の瀬ごとに白波が高く立っているけれども、まっすぐに渡って来た。待っていたら苦しいので。
彦星が妻を呼んで漕ぐ舟の引き綱が切れるように、あなたとの仲が絶えようなどとは、私は思ってもいないのに。
渡し守よ、舟出をして行こう。今夜だけ逢って、その後はもう逢わないというわけではないのだから。
私が隠した楫も棹もなくて、渡し守は舟を貸すだろうか、いや貸しはしない。しばらくはそのまま待っていてください。
高麗錦の紐を解き交わして、天上の人が妻のもとを訪れる今宵だ。私も恋しい人を偲ぼう。
彦星が川瀬を渡る小舟が、無事に行き着いて泊まるであろう川の渡し場のことが思われる。
妻に逢う時をひたすら待つとして、天の川原で幾月も過ごしてしまった。