万葉集
空を飛ぶ雁の翼の覆い羽の、どこから漏れて霜が降ったのだろうか。
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万葉集 - 柿本人麻呂
秋の山の紅葉した木の下で鳴く鳥の声のように、せめて声だけでも聞けたなら、どうして嘆くことがあろうか。
あれは誰だと私のことを尋ねないでください。九月の露に濡れながら、あなたを待っている私なのに。
秋の夜の霧が一面に立ちこめるように、ぼんやりと夢に見たことだ、恋人の姿を。
秋の野のすすきの穂先が生い茂ってなびくように、私の心は恋人に寄ってしまったことだ。
秋の山に霜が降り覆い、木の葉が散って、年は過ぎ去っても、私は忘れようか、いや忘れはしない。
住吉の岸を田に開墾して蒔いた稲が、こうして刈り取る時になるまで、逢ってくれないあなたであることよ。
玉纒の田のほとりに、いつまで妻に逢わずに家を恋しく思っていなければならないのだろうか。
秋の田の稲穂の上に置いている白露のように、今にも消えてしまいそうに私は思われることだ。
秋の田の稲穂が一方になびき寄っているように、私はひたすらあの人のことを思っている。つれないあの人なのに。
秋の田を刈るための仮小屋を作って、そこに住んでいるであろうあなたに逢う手だてがあればよいのに。
鶴の声の聞こえる田のほとりに仮小屋を作って住み、私は旅の身の上であると、妻に伝えておくれ。
春霞のたなびく田のほとりに仮小屋を構えて、秋の田を刈るまで思い続けさせることよ。
守部の里の門前の田の早稲は、刈る時期が過ぎてしまった。あの人はもう来ないつもりらしい。
秋萩が咲いては散る野辺の夕露に濡れながらでも、おいでください。夜は更けてしまっても。
草木を色づかせる秋の露霜よ、降らないでおくれ。恋人の腕を枕にしない今夜は。