源氏物語 - 紫式部
吹き乱れる深山おろしに夢が覚めて、涙をさそう滝の音であることよ。
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急に袖を濡らされたその山の水に、住み慣れて澄んだ心が騒ぐことなどあるだろうか。
宮中の人々に帰って語ろう。この山桜のことを、風が吹く前に来て見るようにと。
優曇華の花に出会えた心地がして、深山の桜には目も移らない。
奥山の松の戸をまれに開けて、まだ見たことのない花のような顔を見ることであるよ。
夕暮れにほのかに花の色を見たので、今朝は霞が立ってしまい、立ち去りかねている。
本当だろうか。花のあたりは立ち去りがたいという言葉は。霞んでいる空の様子を見てみよう。
面影はこの身から離れない。山桜よ、心の限りをその場に留めて来たけれども。
嵐の吹く峰の上の桜が、散らないうちだけ心をとめておられる。その程度の愛情のはかなさよ。
あさか山という名のように浅くあなたを思っているわけではないのに、どうして山の井の影のように離れてしまうのだろう。
汲みはじめて後悔すると聞いた山の井の、浅いままでどうして影を見ることができようか。
こうして逢っても、また逢える夜はめったにない。この夢の中に、このまま紛れ込んでしまう我が身であってほしい。
世間の語り草として人が語り伝えるだろうか。この上なくつらいわが身を、覚めない夢ということにしたとしても。
幼い鶴の一声を聞いてからというもの、葦の間で行き悩む舟のように、思いは進まず耐えがたい。
手に摘み取って、早く自分のものとして見たい。紫の根に通じている、野辺の若草を。
葦若の浦で海松布を見るのが難しいように、逢うことは難しくとも、私は立ったまま引き返す波であろうか。