十六夜日記
一緒に海松布を刈り塩を焼く浦であったなら、かえって袖に波をかけることもないだろうに。
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十六夜日記 - 阿仏尼
朧にかすむ月は、都と同じ空にかかっているというのに、まだ聞いたことのなかった、波の寄せる夜々であることよ。
眠れはしないでしょうね。都の月を身に添えたまま、慣れない枕の、波の寄せる夜々では。
どうにかしてしばらく都を忘れようと忘れ貝を拾うけれども、波の絶え間がないように、私の心も絶え間なく砕けるのだ。
これまで知らなかった浦山風の中にあっても、梅の香においては都に似ている、春の曙よ。
花曇りの空を眺めて日を過ごす、その浦風の中に霞がただよう、春の夜の月よ。
東路の磯山風の絶え間から、波までもが花の面影となって立ちあらわれる。
都の人が思い出しさえするならば、東路の花はどうかと便りをくださるだろうに。
頼みにすることですよ。潮干に拾う空貝にも甲斐のある、その波が立ち返るような日の来ることを。
比べてご覧なさい。霞の中の春の月を。晴れない心は、こちらも同じ眺めなのですから。
白波の色も一つになって散る花を、遠くから思いやることまでもが、面影となって立ちあらわれる。
東路の桜をご覧になっても私をお忘れでないのなら、都の花はどうかと、そちらからお尋ねくださってもよいでしょうに。
むなしく海人が塩を焼く煙だとも、いったい誰が見てくれるだろうか。風に消えてしまったならば。
消えなどしないでしょう。和歌の浦路に長い年月を経て、その光を添えている、海人の藻塩火は。
頼もしいことよ。身に添う友となったのだ、妙なる法の花との契りは。
かつて見た都の世こそ変わっていないだろう。春がすっかり暮れて、春から夏へ移っていく梢のさまも。