万葉集
志賀の海人が塩を焼く煙は、風が激しいので、まっすぐに立ち上らず、山にたなびいている。
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大汝と少御神の二柱の神がお作りになった妹背の山を見るのは、まことによいことだ。
愛しい妻だと思って眺めながら慕おう。沖の藻の花が咲いたら、私に知らせてほしい。
あなたのために浮沼の池の菱の実を摘もうとして、私が染めた袖が濡れてしまったことよ。
妻のために菅の実を摘みに出かけた私は、山道に迷って、この一日を過ごしてしまった。
佐保川で鳴いている千鳥よ、どうしてそんなに川原を慕って、ますます川をさかのぼってゆくのか。
人はいいかげんに言うかもしれないが、私がこれほど慕っている川原に、決して標縄を張って囲わないでくれ。
楽浪の志賀津の海人は、私がいないときに潜って漁をしないでくれ。たとえ波が立たなくても。
大船に櫓があってほしい。あなたがいないのに、潜って漁などするものか。たとえ波が立たなくても。
月草で衣を染めている。あなたのために、まだら模様の衣を摺り染めようと思って。
井戸のほとりからまっすぐ行く道はあるけれど、あなたに逢おうと思って、わざわざ回り道をして来たことよ。
道端の草深い所に咲く百合の花のように、ちょっとほほえんだからといって、妻と言ってよいものだろうか。
黙ってはいまいと、口先の慰めに言うことを、それと聞き知っているのは、つらいことであった。
佐伯山の卯の花を手に持っていたいとしい娘の、その手を取ることができたなら、花は散ってもかまわない。
季節はずれのまだら模様の衣が着たいことだ。島の榛原は、まだ染める時期ではないけれども。
山守が里へ通っていた山道は、草木が茂ってしまった。もう忘れてしまったらしいなあ。